H476J71 2007年 国語 早稲田大学 2/20 政治経済 【一】   次の甲・乙を読んで、あとの問いに答えよ。 甲   〔次の文章は、韓愈の「送 李 愿 帰 盤 谷 序(李愿の盤谷に帰るを送る序)」の一節である。なお、一部の送り仮名、返り点は省いてある。〕 問一 問題文甲の傍線部1「孰 若」の読みとして最も適当なものを、次のイ〜ホの中から選び、答えよ。 イ いづれぞ ロ かくのごとき ハ たれゆゑか ニ なんぞもしは ホ まづもつて 問二 間題文甲の傍線部2「理」とほぼ同じ意味で、そのまま置き換えることも可能な漢字は次のうちどれか。最も適当なものを、次のイ〜ホの中から選び、答えよ。 イ 秩 ロ 修 ハ 法 ニ 治 ホ 収 問三 問題文甲の傍線部3に付けるべき返り点を四つ、解答欄の白文に記せ。なお、送り仮名を書く必要はない。 問四 この文章の主旨として最も適当なものを、次のイ〜ニの中から選び、答えよ。 イ 位人臣を極めた後は、いさぎよく都を去って隠棲することこそ、大人物の人生にふさわしい。 ロ 宮仕えの贅沢な暮らしに慣れると、時に田舎での質素な暮らしがうらやましく思われてくる。 ハ 世に受け入れられないときこそ、立派な人間は世間を遠く離れて素朴な生活をすべきである。 ニ 不遇なときにはかつての貧乏な暮らしを思い出し、身を引き締めて名誉回復に努めるべきだ。 乙   〔次の文章は、十八世紀に書かれた『労四狂』という作品の一節である。本文中に、問題文甲にある「与 其 有 誉 於 前、孰 若 無 毀 於 其 後。与 其 有 楽 於 身、孰 若 無 憂 於 其 心」の読み下し文が引用されているが、ここでは白文に変換してある〕  我が膝頭の毛、長きこと三寸。ある人問ふ、「膝頭、毛の長きことかくのごときなるはいかに。」。予が曰く、「我も知らず。いま我腰折膝行せざればなるべし。馬痩せて毛長く、膝頭毛伸びて我肥えたり。」と言へば、その肥えたる所以を問ふ。予が曰く、「ここに人あり。富貴にして遊楽を常とし、美女美童を集めて、歌舞音曲、糸竹かまびすしく昼夜を分かたずとも、他のそしり、世の聞こえをも憚ることもやあらん。A遊楽は必ず長ず。奢りより生ずるが故なり。長ぜざれば面白からず。長ずるにいたりては猶飽き足らず、衆と楽するとして女童の数を並べ、軽薄者多く席に満つ。この時にいたり、黄金の心ほどに足らざる人もあり。また、黄金足れば、いさむる臣あり、あらそふ親族あれば、おのづから心塞ぐことあり。また、妓女妓童の楽しみ、糸竹音曲も、はなはだ興に入ることは、やうやう一刻二刻のうちなり。やがて興尽きぬ。さて、その楽しみをなして後に、B官事世事にあづからざればならず。官事世事にかかりぬれば、先の遊楽は夢なり。官事世事につきて昼夜を分かたず、二夜三夜も眠らざる人あらんに、その用果てたる時、美女美童を集め、糸竹音曲して楽しましめん時に、常に好む人といふとも、常々と同じく楽しからんか。また閑かなる室に入りて枕取り、一睡したらんが好むところならんか。また人あり。C敵国に使ひせん時、寒風面を打ち、砂礫眼に入り、馬上手かがまり、足屈して鐙を失ふに、その労さへあるに、君命を辱しめざらんことを心中に苦しむこと、いかばかりぞや。この人と、また手づから耕し、あるは蓑織りて今日を暮らす人と比ぶる時、いづれかよしとせん。」と言へば、かの人の言ふ、「その敵国に使ひする武士と、農人・蓑売りなどと、D一つには論じがたし。農人・蓑売りのごとき者、願ひ望むともその武士にはなりがたく、その武士もまた、父祖の家を継ぎ来たれば、苦と労をのがれむとて農人・蓑売りにもなりがたし。」と言ふ。予が曰く、「Eその身のその者になるならざるのことにてはなし。ただその人の家業によりて、苦と労とのことを言ふのみ。また人あり。常に賓客を設け、酒肴を調へ、衣服美を尽くし、家居結構をなすが、黄金を人に借りて返す期に遅れ、貸したる人より催促厳しく、あるはうち腹立て、辱めを与ゆることなどもあり。また物調へてその価をやらずに、面押し拭ひて居る人あり。この人とまた、常に麁食を食らひ、衣服美なく、家居並々にして、人の金銀借らぬ人と、いづれをよしとせんや。前の人は客に交はり、佳酒佳肴の楽しみありといへど、負ふせ方の難あり。後の人は、楽しみなしといへども、心にうれひなし。古語にも、『与 其 有 誉 於 前、孰 若 無 毀 於 其 後。与 其 有 楽 於 身、孰 若 無 憂 於 其 心』といへども、その前にほまれ 1 て、そのしりへにもそしり 2 、その身に楽しみ 3 て、その心にもうれひ 4 ば、猶よからめ。なれども、かくのごときの人はなきものなり。我いまF仕へをやめてすでに年あり。臥したき時に臥し、起きたき時起き、遊びたき所に遊び、行きたき時行き、帰りたき時帰る。春は花に暮らし、夏は涼風の来たる所に行き、秋の暮れの淋しきは酒に忘れ、冬の夜の寒をば火燵にしのぎ、雨降れば出でず、風吹けば出でず、常に寐ることを業とすれば、心中苦と労なし。心苦なければ、安くして気塞がらず。気開く時は血巡る。気血順なる時は、肥えずして何ぞ。」。 (注) 「麁食」...粗末な食べ物。 問五 問題文乙の傍線部A・B・Eの意味として最も適当なものを、それぞれ次のイ〜ニの中から選び、答えよ。 A  イ 遊楽はのめり込んだら決して後もどりができない。 ロ 遊楽はどうしてもより一層度を高めようとする。 ハ 遊楽はたしかに誰でも没頭することができる。 ニ 遊楽は常に年功を重ねて巧みになっていく。 B  イ 奉公や世間の雑事に関与しなければ楽しくはない。 ロ 公私の雑用にかまけてなすべき事が実現できない。 ハ 宮仕えや家事に手間を取られることも仕方がない。 ニ 公務や俗事をこなしていかないわけにはいかない。 E  イ あなた自身がひとかどの人物になれるか否かなどということは、私には関心はない。 ロ 自分の身体がその職能にふさわしいかどうかは、ここでの議論とはまったく関係ない。 ハ 誰かがどういった職に就くとか就かないとかいった次元を、問題にしているのではない。 ニ その身分に生まれついた者は決められた生業に就くしかないという理屈は、肯定できない。 問六 問題文乙の傍線部Cに使われている活用語のうち、活用の種類が見出されないものを、次のイ〜ホの中から一つ選び、答えよ。 イ 未然形 ロ 連用形 ハ 終止形 ニ 連体形 ホ 已然形 問七 問題文乙の傍線部Dに「一つには論じがたし」とあるが、この発言者はどのような理由からそう述べているのか。その理由として最も適当なものを、次のイ〜ホの中から選び、答えよ。 イ 身分の違いは生まれついての宿命であって、変更できないことだから。 ロ 支配者と被支配者では、その与えられた使命に根本的な相違があるから。 ハ 生産を担う農民が為政者に従うことこそが、世間の秩序を守る道徳だから。 ニ 労苦は同じでも、公の仕事と私的な仕事とでは、社会的な意義が異なるから。 ホ 人間の器量は個々人に固有のものであり、努力をしても仕方がないことだから。 問八 問題文乙の空欄 1 〜 4 のそれぞれには、「あり」「なし」のいずれかが入る。その語形の組み合わせとして最も適当なものを、次のイ〜ホの中から選び、答えよ。 イ 1 あり 2 あり 3 あり 4 あれ ロ 1 あり 2 なく 3 なく 4 あら ハ 1 あり 2 なく 3 あり 4 なくん ニ 1 なく 2 あり 3 なく 4 あれ ホ 1 なく 2 なく 3 なく 4 なくん 問九 問題文乙の傍線部F「仕へをやめて」と同じ意味を示す語句を含んだ一文が、「予」の発言の中にある。その文の初めの五文字を、解答欄に記せ。なお、読点も一文字と数える。 問十 問題文乙に述べられている内容と合致するものを、次のイ〜ホの中から一つ選び、答えよ。 イ 膝頭の毛が非常に長く伸びたのは、遊興の楽しみを心ゆくまで堪能した結果なのだ。 ロ 武士としての誇りを失うことなく、どのような労苦も厭わない人物を心から尊敬する。 ハ 富貴ではない人が生活に追われて借金を重ね、遊楽を全く体験できないことは気の毒だ。 ニ 引退して気ままに暮らす自分には、胸中に心配事が無いので、体調が整い太ってしまった。 ホ 四季それぞれの楽しみを堪能しながら自由に暮らすことが、人生最大の幸福だとは限らない。 問十一 『労四狂』と同じく十八世紀に成立した作品を、次のイ〜ホの中から一つ選び、答えよ。 イ 雨月物語 ロ 閑吟集 ハ 好色一代男 ニ 太平記 ホ 風姿花伝